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日本は水資源の豊富な国。日本に住んでいると、季節的な状況や天災を除けば、海外の砂漠地帯のような渇水状況に悩まされることはまずありません。そんな気候風土のせいか、私たちは「水」に関する言葉やことわざ、故事成語を数多く使っています。
状況・状態を表すことば
「水資源の豊富な日本」を意識させてくれるのが「湯水のごとく使う」。お金の使い方を例えるときによく使われ、湯や水のように“惜しげもなく”使ううらやましさと、もったいないという思いが入り混じったイメージです。
すらすらと滞りなく話す「立て板に水」、魚を水に放したように得意な状況・分野に出合って生き生きと活躍する「水を得た魚」などは、水の状態を比喩に使った言葉です。
人間関係に関わることば
「水」には人間関係に関する言葉も多くあります。
「覆水盆に返らず」は英語にも意味が似たことわざがあり、
It is no use crying over spilt milk.
(こぼれた牛乳=済んだことを嘆いても仕方がない)
と、身近なものとして水でなく牛乳を使うところに、日本との違いを感じますね。
人との関わりに関する言葉では、このほか、親子や夫婦など身内だけの状態を表す「水入らず」、仲間うちで盛り上がった熱気を一気に冷ますような言葉をかける「水を差す」、相手を許してわだかまりを残さない「水に流す」は、川の流れで汚れや穢れなどを清めた風習がある日本ならではの言い回しのようです。
また、親しい間柄では遠慮するのを「水臭い」、つまり水で薄めたように味気ないとして嫌います。一方、「君子の交わりは淡き水の如し」これは中国の荘子の言葉ですが、君子の付き合いは水のように淡々としている、つまり、プライベートまで踏み込むような不遠慮な付き合いはしないので、親交も変わらず長く続く、という意味だそうです。
海外のことわざで「水」が使われているものでは、「ナイルの水を飲んだ者はナイルに戻る」があります。エジプトのことわざで、ナイルの良さを表すものだそうですが、水を土地や暮らしなどに例えるところは、日本で土地や居場所などを変わったときなどに使う「水が合う」「水が合わない」という言葉と通じる部分がありますね。
人が生活していくのに欠かせない「水」。こうした言葉がいつまでも使えるような住環境をこれからもずっと守っていきたいものですね。
このコラムは今回で終了します。長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。